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保証債務の履行に伴う求償権の行使ができないこととなった場合の所得計算の特例について  

【特例の内容】

 保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなった時は、その行使することができないこととなった金額は、当該各種所得の金額の計算上なかったものとみなす。 (所得税法64A)


【保証債務の履行の範囲】

 民法第446条(保証人の責任)に規定する保証人の債務又は第454条(連帯保証人の両抗弁権)に規定する連帯保証人の保証債務の履行があった場合のほか、次に掲げる場合も、その債務の履行等に伴う求償権を生ずることとなるときは、これに該当する。


(1)不可分債務の債務者の債務の履行があった場合
(2)連帯債務者の債務の履行があった場合
(3)合名会社又は合資会社の無限責任社員による会社の債務の履行があった場合
(4)身元保証人の債務の履行があった場合
(5)他人の債務を担保するため質権若しくは抵当権を設定したものがその債務を弁済し又は質権若しくは抵当権を実行された場合
(6)法律の規定により連帯して損害賠償の責任がある場合において、その損害賠償金の支払いがあったとき
  


【解説】
 保証債務の履行に伴う求償権の全部や一部を行使することができない場合であつても、その債務の保証をする際に、すでに主たる債務者が資力を喪失しており、その債務の保証をしたことが、形式上は保証債務という法形式をとつていても、実質的には債務の引受けや贈与と認められるときは、この特例は適用されないことになつている。
 従って、物上担保を提供したときにおいて、すでに主たる債務者が資力を喪失しており、保証債務の履行に伴う求償権の行使不能が明らかであるときには、実質的に贈与があつたものと認められるので、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の課税の特例は適用されないことになる。(参考判例等)昭57・3・24・名古屋高等55(行コ)15


【求償権の行使が不能となる場合】

 次に求償権の行使が不能となる場合とは,どのような場合であるかが問題となる。これは個別的事実関係にもよるが,原則として,求償権を行使してもその目的が達せられないことが客観的に判断して確実になつた場合を指すのであり,行使可能の求償権を放棄した場合は含まれない。従って,債務者につき,破産若しくは和議手続の開始,債務超過状態の継続,金融機関や大口債権者の非協力のため事業再建の見通しがないこと,その他これに準ずる事情が生じたことにより求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実となる場合が必要となる。

 

【事例1】

【質問】

 私は甲社の社長をしているが、甲社が銀行からの借入れをするときに連帯保証人になつた。甲社は、取引先の倒産に伴い現在倒産寸前である。そのため、銀行は保証人である私に対して借入金の返済を求めてきたので、私は私の所有に係る土地を売却して、その代金で私が保証した甲社の借入金を返済した。しかし、甲社に対して求償権を行使することは不可能である。

 このような場合、所得税法上、何か特例はないか

【回答】

 保証債務を履行するために資産の譲渡をした場合において、保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた部分の金額は、譲渡所得の金額の計算上なかつたものとみなされる。
 なお、この特例は、確定申告書にこの特例の適用を受ける旨を記載し、かつ、次に掲げる事項の記載がある場合に限り適用されることになつている。
  1 譲渡資産の種類、数量、譲渡金額および保証債務の履行に伴う求償権の行使ができないこととなった金額
  2 主たる債務者および債権者の住所、氏名等
  3 保証債務の履行に伴う求償権の行使ができないこととなつた年月日

 
                       【関連情報】  《法令等》  所得税法64条2項
                                                       所得税法64条3項

【事例2】

【質問】

 保証債務を履行するために資産を譲渡し、その譲渡代金をもつて保証債務を履行したが、主たる債務者に対して求償権の行使ができないときは、その行使ができない部分の金額については、譲渡所得の金額の計算上なかつたものとみなされるということであるが、その求償権の全部または一部を行使することができないこととなつたかどうかはどのようにして判定するのか。

 

【回答】

 保証債務の履行に伴う求償権の行使ができなくなつたかどうかは、相手方の資産状況、支払能力等を総合判断したところによるが、次に掲げる事実が発生した場合のそれぞれ次に掲げる金額は、求償権の行使ができなくなつた金額とされる。
1 会社更生法の規定による更生計画の認可の決定があり、その決定により切り捨てられることとなった部分の金額
2 商法の規定による特別清算に係る協定の認可もしくは整理計画の決定または和議法の規定に和議(強制和議を含む。)の決定があつたことにより、これらの決定により切り捨てられることとなつた部分の金額
3 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、次に掲げるものにより切り捨てられることとなつた部分の金額
(1)債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
(2)金融機関等のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が(1)に準ずるもの
4 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その債務の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し債務免除額を書面により通知した債務免除額(相手方に支払能力があると認められる場合を除く。)

【関連情報】  《法令等》  所得税基本通達51−11
               所得税基本通達64−1
           《判例等》  LEX/DB:21059610
                 昭和52年10月12日東京高裁
                 昭和52年(行コ)第9号 

【解説】

 保証債務を履行するために譲渡所得の基因となる資産を譲渡して、その保証債務の履行に充てた場合において、その履行に伴う求償権の全部または一部を行使することができないこととなつたときは、その譲渡による所得のうち、その行使することができないこととなつた金額に対応する部分の金額は、譲渡所得の金額の計算上なかつたものとみなされることになつている(所法64条2項)。
 この場合において、主たる債務者に対する求償権の行使が不能であるかどうかの判定は、貸倒損失を計上する場合の貸金等の貸倒れの判定の基準と同様の基準により行うものとされている(所基通64ー1)。
 すなわち、その保証債務の履行によつて主たる債務者に対して求償権が発生した場合において、その主たる債務者について次に掲げる事実が発生したときには、その求償権の額のうちそれぞれ次に掲げる金額については求償権の行使が不能として取り扱われることになつている
                                       (所基通51ー11)。
1 会社更生法の規定による更生計画の認可の決定があつたこと……その決定により切り捨てられることとなつた部分の金額
2 商法の規定による特別清算に係る協定の認可もしくは整理計画の決定または和議法の規定による和議(強制和議を含む。)の決定があつたこと……これらの決定により切り捨てられることとなつた部分の金額
3 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で、次に掲げるものにより切り捨てられたこと……その切り捨てられることとなつた部分の金額
(1)債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
(2)行政機関または金融機関その他の第三者のあつせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が(1)に準ずるもの
4 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その貸金等の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し債務免除額を書面により通知したこと……その通知した債務免除額。

 なお、求償権の行使が不能であるかどうかは、主たる債務者が現に債務超過の状態にあるという事情があるほか、将来においても資力の回復が見込まれないために求償債権の弁済を受けることができないと認められるかどうかもその判定の重要な要素になるものと思われる。

 このことは、過去における裁判例において、「所得税法第64条第2項所定の『求償権を行使することができないこととなつたとき』とは、当該求償権の相手方である主たる債務者について、破産もしくは和議手続の開始、事業の閉鎖がなされたことはもちろん、債務超過の状態が相当期間継続し、金融機関ならびに大口債権者の協力が得られないため事業再建の見通しがないこと、その他これに準ずる事情の生じたことにより、求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実となつた場合をいい、主たる債務者の資産状況、経営状態等総合的見地からこれを判断すべきものと解するのが相当である」と判示していることからも明らかである。

 従って、この考え方からすると、主たる債務者の資産状況が債務超過の状態にあり、その債務超過の状態が相当期間継続しているとしても、その主たる債務者の資産状況、経営状態等から総合的にみて、その者の資力の回復が可能であると見込まれるような場合には、その主たる債務者に対する求償権の行使が不能ということはできないことになる。

(参考判例等)
  昭52・10・12 東京高等52(行コ)9

TKC税務研究所編「税務Q&Aデータベースより」

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